
街の小さな図書館で、彼女と初めて出会ったのは桜の花が満開だった春の午後だった。そこはひっそりとした静かな場所で、私はお気に入りの古い小説を探していた。手を伸ばした瞬間、別の手が同じ本に触れた。
「すみません!」
同時に声を上げた私と彼女。目が合った瞬間、彼女の笑顔が眩しくて、言葉を失った。彼女は小柄で、白いワンピースが風に揺れていた。桜の花びらが舞い落ちる中、まるで映画のワンシーンのようだった。
「この本、好きなんですか?」
彼女が尋ねてきた。その声は柔らかく、まるで春そのものだった。
「はい、特にこの作家が好きで。」
私は緊張しながら答えた。彼女は笑顔を浮かべて頷いた。
「私もです。この本を初めて読んだとき、世界が変わった気がしました。」
その言葉に驚いた。まるで自分の心を見透かされたようだった。会話が弾み、私たちは図書館の隅に座り込んで話し続けた。
次に会ったのは偶然だった。彼女が図書館の前のカフェで紅茶を飲んでいるのを見かけたのだ。勇気を出して声をかけると、彼女は驚いた顔をしてからすぐに笑った。
「また会えるなんて、不思議ですね。」
「本当ですね。偶然というより、運命みたいです。」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。彼女は紅茶を飲みながら笑い、私を席に誘ってくれた。彼女との会話はどれも楽しく、時間が経つのを忘れるほどだった。
「そういえば、桜が好きなんですね。」
「ええ。桜を見ると心が落ち着くんです。あなたも好きですか?」
「はい。桜を見ると、何か新しいことが始まる気がするんです。」
それから私たちは、季節が変わるたびに会うようになった。夏には花火大会、秋には紅葉狩り、冬にはイルミネーションを見に行った。どの瞬間も、彼女の笑顔が特別だった。
ある日、彼女がふと真剣な顔で言った。
「私、春が来るたびに不安になるんです。」
「どうして?」
「春は新しい出会いの季節だけど、別れも多いから。」
その言葉に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「でも、出会いがあるからこそ、新しい物語が始まるんじゃないですか?」
彼女はしばらく考え込んでから、小さく頷いた。
「そうですね。あなたと出会えた春は、私の宝物です。」
その瞬間、私は彼女に何かを伝えたくなった。でも、言葉が見つからなかった。ただ彼女の笑顔を見つめることしかできなかった。
春がまた巡ってきた。図書館の前の桜が満開になり、私たちはその下で再会した。
「これからも一緒に桜を見てくれますか?」
彼女は驚いた顔をしてから、笑顔を浮かべて頷いた。
「もちろん。これからも、ずっと。」
桜の花びらが舞い散る中、私たちの新しい物語が始まった。彼女と過ごす時間は、まるで魔法のようだった。